王様の耳は

アクセスカウンタ

zoom RSS もしらば 明穂ルート「赤い糸」感想その2(長文+ネタばれ注意)

<<   作成日時 : 2007/12/09 23:13   >>

ブログ気持玉 0 / トラックバック 1 / コメント 0

 こんばんは。最近めっきり週一更新が板についたmiyaという者です。

 ちょっとだけ愚痴らせて。難産でした。自業自得と分かっちゃいますが、ホント、大変でした。書いても書いても終わらない。これでもだいぶ減らしたんですよ(←お前の書くものはそんなんばっかだ、とか言わないように)。作中の日付で言えば10/23の花火大会後から10/27まで。特に27日の夜の場面は、「赤い糸」後半部分の山場でもあるので、どうしても書く方も力が入ってしまうんですよね。おかげでこの体たらく。
 今更ですがネタバレ注意です。あ、それと前回の続きなんで最初から読んでくれると嬉しいです。ではでは〜〜。






3)宴のあと、破局の序章

 きっかけを作ったのは、花火大会を終え、帰る際の珠美のこの一言でした。
「いつまで、こんなこと、続けるんですか」

 それまで、一樹も、そして見ている僕たちも、この先明穂を待つ運命は、(旅行前日に千早が言っていたように)力を失って消えてしまう、またはそうなる前に散ってしまうことだと思っていました。
 しかし珠美が一樹に告げたのは、更に残酷な結末でした。
 明穂と一樹が今のままでいる以上、この最悪な結末は避けることが出来ない。なぜなら、明穂も一樹もお互い相手から離れられないから、互いを想う気持ちに、相手からの想いに、縛られているから。それを珠美は「赤い糸の呪縛」と言います。
 明穂を救うためには、明穂をこの呪縛から解き放って成仏させるしかない。でも、明穂は一樹から離れる意志はない。
 選択を迫られる一樹に、珠美は告げます。たった一つだけ、方法はある、と。しかしそれは、明穂にとっても、そして一樹にとっても、最も辛い方法でした。
「先輩から、切ればええ…」

 物語開始当初と違い、今の珠美にとって明穂と一樹はどちらも大切な存在です。珠美は珠美なりに、2人のことを思えばこそ、最善の方法を考え、悩んだ末にこの結論を下したのでしょう。愛し合う2人にとって余りに過酷な解決策ですが、第4章で実との別れを経験した珠美であればこそ、せめて明穂には成仏というまだしも救いのある終わりを迎えて欲しいという、これは彼女なりの思いやりなのだといえます。

 1つ、気になった台詞があります。明穂を待ち受ける運命について何も知らない様子の一樹に対して、珠美が発した質問です。
「…先輩、千早から聞いとらんのか?」

 会話の中でさらっと出てきて、しかもその後すぐに明穂の話になってしまったため、そのままスルーされてしまった問いですが、この言葉は非常に重要な意味を持っています。

 「千早から聞いとらんのか?」という問いは、その前提として「千早はこの後明穂に起きることを知っている」「当然千早はそのことを一樹に話しているはずだ」という内容を含んでいます。珠美の目には一樹の様子は、全てを知っていながら何も手を打っていないように映っていて、だからこそ、「いつまでこんなこと」という問いかけになったのでしょう。
 千早は(合歓の木に封印されていたとはいえ)500年の時を生きてきた神様です。珠美が知っている程度の知識は当然身につけている筈です。にもかかわらず、明穂が力を失ってしまったあの晩、一樹から促されたとき、「このままでは明穂は消えてしまう」とは言っても、「その後明穂がどうなるのか」ということには言及しませんでした。
 明穂にとって、そして一樹にとっても大問題であるはずの「その後」のことを、なぜ千早は口にしなかったのでしょう。

 答えは明白です。千早は言いたくても言えなかった。言うことを禁じられていた。口止めされていた。

 誰に?――決まっています。明穂以外に誰がいるでしょう。

 明穂は全てを知っていた。自分が消えてしまうだけでなく、永劫に苦しみそして悲しみ続けていかなければならないのを。
 おそらく、いや、まず間違いなく千早に聞いたのでしょう。元々千早は明穂が話し相手として鳩羽家に連れてきた子です。一樹やつばさの知らぬうちにその話をする機会はいくらでもあったはずです。

 全てを知って、知った上で、それでも明穂は一樹のそばにいることを選択した。

 そう考えると、この後の鬱展開における2人の思いの「ずれ」が際立ってきて余計に胸が苦しくなってくるのです。ちょっとした勘違い、思い込みが、もしかしたら避けられたかもしれない破局へと2人を追いやってしまったような気がして。

 明穂は気づいていません。一樹が、明穂を待ち受ける運命を知ってしまったことに。だからこの後、一樹の態度が急変したときにも、その原因を自分の側にだけ求め、一樹の真意を掴み損ねてしまいました。
 一樹は知りません。明穂が、自分の運命を含め、全てを承知した上で一樹の側にいると決めたその覚悟を。だから、自分が明穂を拒絶すれば明穂は諦めて成仏すると思ってしまいました。

 深く結びついていた、通じ合っていた筈の2人の心は、皮肉なことに、2人が相手のことを深く想うがゆえにずれていってしまったのです。


4)破局の夜。一樹の想い、明穂の願い

 この後の一樹の明穂に対する態度は結構批判の的になっているようです。元々ヘタレで優柔不断で、にも関わらず女の子にモテモテで、おまけに明穂みたいないい子が献身的に尽くしてくれるという、同性からすればこれ以上ないくらいムカつく設定なので(笑)、余計パッシングの対象になるのでしょうね。

 僕の評価は辞典や共通感想に書いた通りです。たとえ明穂のためとはいえ、一樹のしたことはダメダメで、ちょっと焦りすぎの上に考えがなさすぎでした。
 でも、それでも、あそこであんな風にやりすぎてダメダメにしてしまうのも、わかる気がするんです。やったことは馬鹿だけど(酷)、ではあの状況で一樹に他にどんなことができたのか。

 明穂ともう一度よく話し合って説得する? 一番オーソドックスな方法ですね。でもそれは、この時点ではもう無理なのです。明穂は既に、第1章、第5章と、2回成仏を試みて失敗しています。そしてその結果、成仏はしない、一樹の側にいるという意志を固めてしまいました。最早説得を受け入れる段階は過ぎてしまっています。
 更にまずいのは、説得する側であるはずの一樹自身も、明穂と離れたくないと思っていることです。成仏が2回とも失敗してしまったのは、明穂の気持ちの問題のみならあず、一樹が明穂の成仏を「嫌だ」と拒絶したことも大きいのです(第5章で明穂の成仏の決心が挫けたのは、一樹が手を放さなかったのがきっかけでした)。
 2人ともお互いに離れたくないと思っているのでは、話し合いの入る余地はないです。

 話し合いで解決できない問題なら――実力行使しかないではないですか。

 このシークエンスでのポイントは2つあります。1つは、明穂が指摘したように、一樹はいざとなったら、突拍子もないことを、それもやりすぎるくらいにやってしまうところがあること。第1章のデートイベントにおける甘味処の場面、第4章で実を祓おうとした珠美を止める場面を見れば分かるように、普段は優柔不断な一樹ですが、何かの折にスイッチが入るとかなり思い切った行動に出ます。これまではそれが良い方向に働いていましたが、ここではどうでしょうか。
 
 当初、一樹がとった具体的な行動は「明穂を避ける」という消極的かつ情けなさ全開のものでした。しかもその際に、
結局のところ、僕は失いたくないだけなんだ。
決定的な言葉を口にして、明穂に嫌われるのが怖いんだ。

と、正直に自分のヘタレさを告白してるあたり絵に描いたようなダメ主人公(笑)です。この時点では、珠美に言われてはみたものの、まだ胆をくくりきってはおらず、「明穂の方でこっちの気持ちを察して成仏してくれないものか」と虫のいいことを考えていたフシがあります。。
 しかし、一樹がそうやって明穂を避け、そっけない態度をとっても、彼女が諦めて一樹から離れる気配はありません。当然です。明穂は何があっても最後まで一樹の側にいると決めたのですから。

 不安と疑念に苛まれながら、それでも精一杯明るく振舞い、一樹に微笑みかける明穂。その健気な姿に一樹の心は揺れ動きます。できることなら今まで通り、明穂と一緒にいたい――それが一樹の本心です。
 でもそれは許されることではありません。明穂のためにも、彼女を何としてでも成仏させなくてはならないと一樹は一途に思っています。
痛い。
…胸が痛い。
でも、これが明穂のためだから、
僕が悪者になって住むのなら――それでいい。

 自分の中の相反する思い、明穂に対する罪悪感、加えて、いつタイムリミットが来るかわからないという不安と焦り――そうしたもろもろのものが、一樹を追い込んでいきます(直之や委員長とケーキを食べる場面で、「こうしている間は余計なことを考えずにすむ」と独白したのは、一樹の偽らざる本心でしょう)。そしてついに、一樹の「スイッチ」が入るときが来てしまいました。
「お願い…、少しでいいから…」
「お話…したい…」
  「勉強中だから、邪魔しないで」
「終わってからでもいいからっ」

 どれだけ冷たくされても、一樹を信じ、一縷の希望に縋ろうとする明穂。その姿を見たとき、一樹は決断したに違いありません。明穂を救うためには、彼女の心を犠牲にすることもやむを得ない、と。
「明穂」
  「な、なに…?」
「…あっちいけ」
  「え…?」
「邪魔だから、あっちいけ」

 一樹からの、初めての、明確な拒絶。その言葉を聞いた瞬間、必死に絶えてきた明穂の心の中で何かが崩れてしまいます。
「カズちゃん…、あは…あはは」

虚ろに響く明穂の笑い声。ここは本当にやっていて一番辛い場面でした。前向きで、何があっても明るさを失わない明穂の、こんな悲痛な声だけは聞きたくなかった。

 それは一樹も同じだったはず。でも、ここまで来てしまった以上、途中で止めるわけにはいきません。既に2度、成仏に失敗していることを考えれば、これが最後の機会と一樹は思ったでしょう。この機会を逃したら、明穂の成仏の機会は永遠に失われると。
 だからこそ、彼は強引にことを進めます。そして前述のように、一樹は一度そうと決めたら、断固として、やりすぎるくらいにやってしまう少年でした。

 この後、一樹はかなり酷い言葉を明穂にぶつけます。それはもう見ているこちらが痛くなるくらい。これがもしらばでまだよかった。S○hoolD○ysだったら確実に一樹は明穂に刺されてたでしょう。旅行や花火の場面でせっかく上がった一樹の株も、これでは大暴落――と思えてきます。

 この場面、やはり批判が多いですね。一樹自身に対する批判と、シナリオに対する批判。いくら明穂の成仏のためとはいえ、恋人に対してここまで言わせるか。ちょっとひどすぎじゃないか。などなど。

 まあその通りです。何度も言いますが、この場面での一樹の言動は考えなさ過ぎでダメダメです。でもそれは、やっぱり、ある意味しょうがないと思うのです。なぜなら、そこまでしないと、成仏の障害である想いは断ち切れないと、一樹は考えたから。そしてその想いの中には、一樹の、明穂に対する思いもまた含まれていたから。

 これも何度も言いますが、一樹は、頭では明穂を成仏させるのが彼女のためだとわかっていながら、感情のレベルでは彼女と別れることを強く拒んでいます。だから明穂を成仏させるためには、彼女を諦めさせて成仏に向かわせるだけでは不十分なのです。それでは第5章と同じことになってしまう。
 自分自身の、明穂への未練を断ち切ってしまわなければ、駄目なのです。
 
 僕も最初にこの場面を見たときには、(たとえ本心でないとわかっていたとはいえ)一樹の言動には腹が立ちました。「ずっと一緒にいたいのっ! それでいいって…、言ってくれたでしょぉ…っ!?」と泣き叫ぶ明穂に、「…記憶にないよ」と応えるにいたっては「おまえそれはないだろう」と画面に突っ込んだほどです。

 が、2度、3度やるうちに気がつきました。この場面、明穂に向かって何度となく酷い言葉をぶつける一方で、一樹の独白があまり見られないということに。他の場面では饒舌なくらい自己の心情を吐露している一樹なのに。これはどうしたことでしょう。

 考えてるうちに気がつきました。酷い言葉。冷たい表情(いや一樹の顔絵はなかったですがそういうイメージだったので)。それは彼の本心を隠す仮面だったのでは、と。本心を隠すために、あえて彼は自分の心情を語らなかったのではないか、と。
 
 仮にここで一樹の心情がもっと丁寧に描写されていたら、その内容はどうだったでしょう。おそらく、明穂と同じように泣き叫んで相手にしがみつきかねないほどの激しい想いが、彼の心の中で荒れ狂っていたのではないでしょうか。一樹の酷い言葉は、明穂だけでなく、一樹自身の心も激しく傷つけていたのではないかと思えるのです。
 だからこそこの後、明穂が自分の想いを激しくぶつけてきたとき、一樹の心は揺れ動きます。氷のように固く閉ざした心に、ひびが入りそうになります。
「嘘でもいいから、好きって言ってよっ!」
「嘘でも…いいから…、抱きしめてよぉっ!」
衝動に駆られた。
けれども、抱きしめるわけにはいかなかった。
   「ごめん」
動きかけた腕を、無理矢理ねじ伏せた。
両脇に垂らしたまま、思い切り拳を握りしめていた。
「だめ…なの…?」
「ぎゅって…、してくれないの…?」

 明穂ルートを、感動という要素を抜きにして、純粋にシナリオの流れだけで見た場合、僕はこの場面での一樹の葛藤こそが「赤い糸」の山場ではないかと思えてくるのです(ちなみに、このときの明穂の台詞が、クライマックスの秘密基地の場面での重要な伏線となってきます)。



 この場面におけるもう一つのポイントは、明穂の、一見不可解に見える言動です。
 なぜ明穂は、事態がここまで悪化する前に、有効な手を打とうとしなかったのでしょうか。
 いや、それ以前に、明穂は一樹の態度が急変したことに対し、疑問や違和感を抱かなかったのでしょうか。

 わかりやすい後の疑問から片付けていきましょう。それまで献身的に自分に尽くしてくれた恋人が、突然よそよそしい態度をとったりしたら、普通は、まず恋人の変化の原因を考えるのではないかと思いますよね。特に今回の場合、明穂は一樹の様子が変わったのは花火大会のあった夜からだということは把握しているのですから。
 「たまに抜けたところがある」と一樹に言われたりする明穂ですが、基本的に彼女は頭の回転の速い聡明な少女です。花火の後、一樹が珠美を送っていったという事実と、彼の態度の急変を関連付ければ、何が一樹を変えてしまったのか、ある程度の見当はついたと思うのです。

 ところが明穂は一樹が自分を避け始めると、「心当たりがありすぎて、困ってしまう」と言って、その原因を一樹ではなく、自分の側にのみ求めようとします。まるで全ての責任は自分にあると言わんばかりに。これは一体どうしたことでしょうか。

 どうもこうもないですね。つまり明穂は
・一樹の心が自分から離れていく可能性はゼロではない。
・そうなった場合、その原因は自分にある。

 と考えていたことになります。それも今このときに、こういう事態になって初めて考え始めたのではなく、普段から上記2点について思い悩んでいた可能性が高い。だからこそ、一樹の態度の急変に対し、自分の事情にのみ意識が行ってしまい、冷静に考えればすぐわかるあの夜の因果関係を見過ごしてしまったのでしょう。

 ではそこまで彼女を悩ませていた事情、「ありすぎるほどある」中で、一番彼女が気に病んでいた「心当たり」とは何でしょう。

 これはもう、言うまでもありません。明穂は自分が幽霊であるということに、ずっと負い目を感じていたのです。

「幽霊ですからー、試験も学校も何にも無いワケよ」(第2章)と明るい幽霊ライフを送っているかにみえる明穂ですが、その一方で折に触れて一樹に「幽霊でごめんね」「死んじゃって、ごめん」と謝っていることに要注意です。一樹のことが大好きで、一樹も自分のことを好きだと言ってくれて、でも幽霊である自分、未来のない自分には一樹を幸せにしてあげることができないということが、彼女を悩ませ苦しめていたのです(他のヒロインルートでは、このことが結果として彼女を成仏へと向かわせる大きな要因となります)。

 そうした明穂の負い目が、いつしか彼女の心の中に「一樹は自分の元から去ってしまうのではないか」という不安を生み出したとしてもおかしくはありません。少なくとも、第5章を経て、2人が本当の意味で恋人同士になったときから、彼女の心の中ではその不安がくすぶり続けていたのではないでしょうか。その不安が、この後、一樹から拒絶されたときに、
「私が…、幽霊だから…っ」
「私が、へんな女だから…っ!」
「だから、好きになんて、なれないんでしょ…」

という台詞となって表れるわけです。

 では、そうした危機感を持っていた明穂が、いざ危機的な状況を迎えたときに何もしなかった(できなかった)のはなぜでしょう。この場面における明穂は、状況が刻一刻と悪くなっているのに、為す術もなく手をこまねいているうちに破局の夜を迎えてしまったとしか思えないのです。いつもの我が儘放題の明穂はどこへ行ってしまったのでしょう――と、みなさん思ったりしてません?

 ここでちょっと考えて欲しいのですが、明穂って、そんなに我が儘ですか?

 確かにOHPのキャラ紹介では『一樹の前だけで見せる本性は、我が儘で意地っ張りな一面も』なんて書いてあります。だもんで僕も何となく「明穂=(少なくとも一樹に対しては)我が儘」というイメージで捉えることが多いのですが。でまたamazonのもしらばレビューなんか読んでみると、「明穂は我が儘で自己チューだから好きじゃない」って書いてる人が割といるんですよね。

 じゃあここで質問。これまで明穂は具体的に一樹にどんな我が儘言ってましたっけ。

 そんなに大したこと言ってないでしょう。せいぜいが、勉強一休みしてお茶に付き合えとか、そのレベル。あ、「瀬戸黄門」を忘れずに予約しろ(笑)、なんてのもありましたね。

 普段から一樹のことからかったり強引だったりちょっと意地悪したりするから、我が儘って言われると、なんとなくそう思ってしまうのですが、明穂は決して、我が儘な子じゃないと思うのです。むしろ彼女がOHP通りの我が儘な性格だったら、このシークエンスも、ここまでキツい展開にはならなかったんじゃないですかね。

 我が儘どころの話ではありません。例えば、第1章のデートイベントを思い出してください。あれは明穂から言い出したことですが、そもそもあれだって、最初から彼女が「私はカズちゃんとデートしたいの! したいったらしたいのぉ〜〜」と無理言って一樹を付き合わせたわけじゃない。逆に一樹のほうが、落ち込んでいる明穂のために何かしてあげようと考えて、明穂に希望を聞いたわけじゃないですか。そして彼女は、一樹に促され、さんざん迷って悩んだ挙句、「デートしたい」って言ったんです。それも本当は、「恋人としてカズちゃんの側にいたい」と言いたかったのに、言えなくて、それで仕方なく「デートしたい」って言ったようなもの。
 こういう子のどこら辺が我が儘なのでしょう。

 そして第5章。自分も学園祭に参加したいと思いつつ、幽霊だからかそれは叶わない望みと諦めて、本音を押し隠す明穂。一樹に「明穂のやりたいことをやろう」と言われてポロポロと嬉し涙を流す明穂。演劇部の助っ人やら何やらで忙しくなってしまった一樹に「私と一緒にいて」と言いたくても言えない明穂。
 こういう子のどこら辺が我が儘なのでしょう。

 他にもまだまだあありますが、もういいでしょう。割とどうでもいいことには我が儘だったり強気だったりする野乃崎明穂という少女は、本質的には、本当に自分の訴えたいことや重要なことになると、臆病と言ってもいいくらいナイーブになってしまう子だということです(そういう意味で、明穂とつばさはやっぱり姉妹だなあと思います)。

 そんな明穂だからこそ、一樹の態度が急変したことに対して、疑念と不安に苛まれながらも、何も出来なかった。殊に、一樹から帰ってくる答がある程度予想できるこの状況で、それでも彼の心を確かめるような行動をとるのは、明穂には辛すぎたのでしょう。

 だからこそその後、決定的な破局の夜、↑でも引用した明穂の台詞
「お願い…、少しでいいから…」
「お話…したい…」
  「勉強中だから、邪魔しないで」
「終わってからでもいいからっ」

 この、ささやかすぎるお願いを、明穂がどれだけ悩み苦しんで、どれだけの勇気を振り絞って口にしたのか。それを考えると、胸が痛みます。そしてまた、だからこそ、明穂のこの必死の懇願が、
「邪魔だから、あっちいけ」

と、拒絶されたとき、彼女が半狂乱となってしまったのも無理からぬところと言えます。

――なんて、自分で書いといて何ですけど、よくよく見れば、このときの明穂の反応は「無理からぬ」どころの騒ぎじゃないですね。一樹に「あっちいけ」と拒絶された明穂は、ラップ音を伴うほどのポルターガイストを引き起こして部屋の照明を破壊した挙句、
「いやああああああああっ!!!」
「あ…あ…あ…、あああああああーっ!!!」

一瞬、精神的に壊れてしまったのではないか、と思えるほどの錯乱状態に陥ります。確かに、なけなしの勇気を振り絞った明穂のお願いに対して「あっち行け」という一樹も鬼畜ですが(まあ、一樹は明穂のそうした気持ちを了解した上で、敢えて一番酷い言い方をしたのでしょうが)、一樹の拒絶に対し、こちらも拒絶の言葉で応えた明穂の反応は、やっぱり極端にすぎるような気がします。
 なぜ彼女は、こんなに激しい反応を見せたのでしょうか。

 思い出して欲しいのは、これと似た反応(錯乱こそしませんでしたが)を、明穂は以前にも見せたことがあるということです。第3章でつばさに、「死んじゃったくせに、じゃましないでよ」と言われたときです。あの時、明穂は一時的に霊力を失い、体が透けてしまうほどのショックを受けていました。

 ここからわかることは何か。明穂は人から、それも親しい人や大切に思っている人から拒絶されることを、極度に恐れているということです。それはほとんどトラウマと言ってもいいほどに。
 トラウマ? 彼女にとってそれがトラウマとなるような出来事が過去にあったでしょうか。
 ありました。幼い頃の両親の死と、それに続く親族間のごたごたです。

 明穂とつばさが鳩羽家にひきとられたいきさつは、プロローグで語られています。明穂はあえて冗談めかして話していますが、そのことは逆説的にこのときの経験が明穂にとっていかにキツいものであったかを物語っています。

 ここからはかなりmiyaの妄想が入ってきますので(←じゃあこれまでの感想は妄想全開じゃないのかという突っ込みはなしでお願いします)、そのつもりで聞いてください。明穂、つばさの両親については、交通事故で死んだこと。遺産らしい遺産もなく、その後、幼い姉妹が住む場所をなくしているところから、暮らしぶりは質素だったことくらいしかわかりません。それでも、姉妹の人柄や、鳩羽家に引き取られた2人が、養女という形をとらず(作中で言及されてはいませんが、おそらくそういう当然そういう話は出たことでしょう)、あくまで「野乃崎」の姓にこだわっているところから考えて、親子の仲が悪かったとは考えられません。明穂にとって両親は大切な人たちであったことは容易に想像できます。

 その大切な人たちに、幼くして死に別れたことが、明穂の心にどれだけ大きな傷となって残ったか、これまた想像に難くありません。それが原因で、「大切な人がいなくなってしまう」「自分の側から去ってしまう」ということを、彼女が極度に恐れるようになったとしてもおかしくはないと思います(また、自分がそういう辛い経験をしてきたからこそ、その自分が死んで一樹の側からいなくなってしまったことに、彼女はあれほどまでの負い目を感じているのでしょう)。

 そしてだれが野乃崎姉妹を引き取るかでもめる場面。赤の他人ではない、血のつながりのある人たちが、自分たちを拒絶する様子を明穂は目の当たりにしています。その不安。悲しさ。憤り。泣いてしまえればどんなに楽だったでしょう。けれど、もっと幼いつばさを支えていかなければという責任感から、明穂は泣くことすらできません(いやだからこのあたり全部僕の妄想ですけど、たぶんこんな感じだったと思いますよ)。業を煮やした一樹の父が、「お前らには任せておけん」と言ってくれるまで、幼い少女がどれだけ心細い思いでいたか、これも考えると胸が痛くなってきます。

 幼い頃のこうした経験が、その後の明穂の人格形成に影響を与えないはずはありません。そう考えると、いろいろと符牒が合ってきます。

「朝はやっぱりご飯よね」と第4章で言ってる割に鳩羽家の朝がパンなのは、パン食の鳩羽父に遠慮してのことだという一樹の台詞。
周りからの、誰からも好かれる品行方正な優等生という評価。
妹の、姉にコンプレックスを抱いてしまうまでの完璧ぶり。
つばさルートの終盤で明穂が口にする「猫っかぶり」という自己評価。

 これらの全てを、見せ掛けの仮面と言うつもりはないですが、明穂が、本当の自分をかなり抑えて、いわゆる「いい子」を演じていたのは、恐らく間違いないでしょう(つばさルートでの露骨に偽悪的な自己評価は、つばさの心を救うために敢えてそう言ったという感じが強いですが、「自分の全部が好きな人なんて、滅多にいない」という台詞だけは、明穂の偽りのない本心だったという気がします)。人に拒絶されることを恐れ、大切な人を失うことを恐れる明穂の、それは少しだけ悲しい処世術だったと僕は思うのです。

 で、話はようやく戻るワケですが、明穂が一樹から拒絶の言葉をぶつけられたとき、あれほど取り乱したのは、↑に書いたようなことが背景としてあったんじゃないかなと考えるわけです。そしてそれゆえに、この後、自分の思いを激しく一樹にぶつけてくる明穂の姿に、胸を打たれるのです。
「お願い、だから…っ、こっち見てよぉっ!!!」
「やだ…、やだぁ…っ! 嫌いに…ならないで…っ」
「私…、わたし、カズちゃんしかいないの…っ、カズちゃんじゃ、ないと、ダメなのぉ…っ!」
「私を見てよっ! 話してよぉっ! 側に…カズちゃんの側に、いさせてよぉ…っ!!」
「本当に…、側にいられれば…それだけでいいの…」
「嘘でもいいから、好きって言ってよっ!」
「嘘でも…いいから…、抱きしめてよぉっ!」

 なぜなら、明穂がここまで自分の本気の感情を、包み隠さず、ストレートに一樹にぶつけてくるのは、プロローグからここまでの中で、恐らくこれが初めてだから。
 打算も駆け引きもなく、純粋に、一樹への一途な想いを伝えようとする明穂は、見ていてとても切なく、あまりにも悲しく、そしてたまらなく愛おしいのです。

 人を本気で好きになるというのは、こんなにも辛く、苦しく、でもとても尊いものなんだな、と。

画像

 
 そして、何より悲しいのは、そんな明穂の気持ちを、誰よりもよく知っている一樹が、それゆえにこそ、彼女の気持ちに応えてあげることが出来ないということです。
 明穂に「嘘でもいいから、好きって言ってよっ!」と言われた一樹は、激しく葛藤します。そして、ついに、
「カズちゃん…は…」
「私のこと、嫌いになったの…?」
奥歯を噛みしめる。
――これだけは、言いたく無かったのに。
  「嫌い…だよ」
――好きなのに。
  「明穂のことなんか、大嫌いだ」

 明穂のため、明穂を成仏させるため、これだけは口にするまいと思っていた言葉を、明穂に告げます。
 一樹からの最後通告。この言葉を聞いたときの、明穂の寂しさと悲しみと諦めの入り混じった表情はちょっと見ていられない程です。そうして明穂は全てを受け入れたように、一樹の前から消えていきます。
「そう…なんだ…」
「嫌い…なのね…」
「分かった…」
「私…、いなくなる…ね……」
「カズちゃんが言うなら……」
「成仏…する……」
「……カズ、ちゃん」
「さよ…なら……」
 
 ここでまた妄想をたくましくしてしまうのですが(←またかよ、という突っ込みはご勘弁)、一樹に「あっち行け」と言われたときにあれほど激しく取り乱した明穂は、なぜここでは錯乱も泣き喚きもせずに、素直に消えてしまったのでしょうか。「あっち行け」よりもっと酷い決定的な拒絶の言葉を告げられたというのに。

 それまでの一樹とのやりとりで、「嫌いだ」と告げられることは十分予想できた、だからそう言われたときには心の準備ができていた、と考えることもできますね。でも僕は、ここでちょっと妄想してみるのです。

 明穂は一樹に「嫌いだ」と言われたときに、彼の真意に気がついたのではないか、と。

 根拠は何もありません。ただ明穂の性格からすれば、この決定的な一言を聞いた瞬間、理屈ではなく直感的に、一樹が本当は何を考えているか理解したとしてもおかしくないな、と思うのです。そう、第2章のクライマックスで、千早の懺悔を聞いたときに、(これもおそらくは直感的に)千早を赦すと決めたときのように。

 だからこそ明穂は、反発も反駁もせずに、一樹の前から姿を消した。

 波乱の一夜は、取り敢えずの終局を見ました。

 明穂が成仏したと信じている一樹にしてみれば、明穂を救うために、今度こそ彼女を成仏させなければならない、という所期の目的を達成できたことになります。
 
 また、明穂にしてみれば、一樹が彼女の成仏を信じてくれたことにより、最後のときまで一樹の側にいたいという願いが叶うことになります。

 結果だけ見れば、2人の願った通りになったわけです。
 何の問題もないはずです、結果だけ見れば。

 しかしそれは、本当に2人の望んだ結果といえるのでしょうか。

(続く……たぶん、あと一回だけ)



↑最後まで付き合ってくれた人も途中で挫折した人もクリックお願いします。

web拍手を送る


テーマ

関連テーマ 一覧


月別リンク

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!
ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。
→ログインへ

トラックバック(1件)

タイトル (本文) ブログ名/日時
無条件返金保証付き!株投資で確実に利益を出し続ける投資法
ここに、ある条件の元でできる株式投資法があります。 それは、”無料”で手に入る投資法。   もし、この方法によって見出された一つの銘柄で、 20%以上の利益が出せなかった場合には、 マニュアル代金と50万円が返金されます。   完全ノーリスクで始められる... ...続きを見る
情報商材の一番星を探せ,もしらば 明穂ル...
2007/12/10 19:17

トラックバック用URL help


自分のブログにトラックバック記事作成(会員用) help

タイトル
本 文

コメント(0件)

内 容 ニックネーム/日時

コメントする help

ニックネーム
URL(任意)
本 文
もしらば 明穂ルート「赤い糸」感想その2(長文+ネタばれ注意) 王様の耳は/BIGLOBEウェブリブログ
文字サイズ:       閉じる