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というわけで。 なぜ演劇部の部員である佐倉麻里さんが僕たちと行動を共にしているのか。 そしてなぜ明穂の機嫌が悪くなっているのかというと―― 話は前日に戻る。 「カズちゃん、はい、あ〜〜ん♪」 10月最初の月曜日。 「あ〜〜ん、ぱくっ。もぐもぐ……」 学生たちで賑わう昼下がりの学食。 「どう、おいしい?」 「うん、明穂が食べさせてくれるものなら、なんだって美味しいよ」 僕と明穂がいつものように二人きりの食事を満喫していると―― 「うふっ、うふふふ〜〜♪ それじゃ今度はこっちね。はい、あ〜〜……」 「こぉらーーーっ!!! そこのバカップルーーーーッ!!」 ――いつもの怒鳴り声が、僕たちの甘いひとときに終止符を打った。 もしらばAnotherStory 彼女はたぶん魔法を使う その2 presented by miya ☆10/2(月)〜3(火) 彼女はたぶん馬に蹴られる 「ぅ……出たわね、お邪魔虫が」 さばみそを僕の口に運びかけていた明穂が、忌々しげに呟く。途端に、 「虫って言うなぁぁぁっ!!」 突っ込まれた。 「げ……聞こえてるし」 「あははは……委員長ってば耳がいいね」 苦笑混じりに言うと、僕は諦めて箸を置いた。今までの経験からいって、こうなった以上しばらく食事は再開できそうにない。 「まったく、アンタらときたら! 教育的指導指導指導っ!!」 首からぶら下げたトレードマークのホイッスルを吹き鳴らしながら、器用に人混みの間を縫ってやって来るのは、僕たちのクラスメイトで名前は香坂彩乃。通称『委員長』。 『姫宮学園体育会所属演劇部主将』の異名をとる炎の演劇部長にして、クラス委員も務める女傑である。 僕や明穂とは、入学以来の付き合いとなる気の置けない友人だ。 いや、友人であることに違いはないんだけど―― 「いつもいつも言ってるでしょ、いくら公認の恋人同士だからって、人前で恥ずかしげもなくイチャイチャベタベタしないの! 少しは周りの視線とか気にしなさいよ! それと鳩羽君」 「は、ハイッ!?」 「顔、緩みすぎ。恋人にご飯食べさせてもらって嬉しいのは分かるけど、あんまりデレデレしてるとみっともないわよ」 「ゴ、ゴメン……」 「う〜〜っ………」 夏休みが終わってからというもの、こんな風に委員長から「健全な男女交際」についてお小言を食らう回数が飛躍的に増えたと思う。 「あと明穂! アンタは鳩羽君に密着しすぎ。フェロモン出しすぎ。目が怪しすぎ! もう三か月近くたつんだから、いい加減新婚気分から離れろっての!」 「うぅ〜〜〜〜っ…………!」 「見てごらんなさい! アンタらが『はい、あ〜〜ん♪』とか恥ずい真似してピンク色の結界張ってるおかげで、周囲三メートル以内に誰も近寄れなくなってるのよ! もうちょっと周りの迷惑考えなさいよね」 「な――なによなによ何よーーーーっ!!」 う〜う〜唸っていた明穂がついにキレた。テーブルを拳で叩きながら立ち上がり、 「いーじゃない別に仲良くしたって! 私とカズちゃんは恋人同士なんだから、イチャイチャだってベタベタだってしたいに決まってるでしょ! 大体彩乃こそ毎日毎日しつこいわよ。頼まれもしないのにどうしていつもいっつも人の恋路のジャマばっかりするのよ!?」 「アンタらが道を踏み外したり学園内の風紀を乱したりしないように目を配るのは、クラス委員として当然の務めです。公共の場所で、高校生にあるまじき不埒な振る舞いに及ぶのを黙って見過ごすと思ってか!」 委員長も負けじとテーブルを叩いて立ち上がる。 「む〜〜〜〜っ……」 「んぬぬぬぬっ……」 そのまま、テーブルを挟んで至近距離で睨み合う二人。 こんな感じで委員長が明穂と火花を散らすのも、今ではすっかりお馴染みの光景、学園内の日常イベントとなってしまった。 そんなわけで、『部長』『委員長』に加えて、新たに付与された肩書きが―― ――『野乃崎明穂の天敵』。 「あ、あの、明穂も委員長も、もうちょっと落ち着こうよ、ね? あんまり大きい声出すと他のみんなに迷惑だし」 さすがに周りの視線が痛くなってきたので、なるべく穏便に調停案を提示してみたのだが、 「カズちゃんは」「鳩羽君は」「「黙ってて!」」 一瞬で却下された。悲しすぎる。一応、僕も当事者の一人の筈なのに…… それにしてもこんな時だけ息がぴったり合っている。なんだかんだ言ってやっぱりこの二人、仲がいいんだよな。 激しい舌戦を繰り広げる明穂と委員長に溜息を洩らしつつ、そんなことを思った。 で、いつもなら昼休み終了の鐘でタイムアウトになるか、騒ぎを聞いて駆けつけた先生の仲裁で引き分けになるかなんだけれど、この日は違った。 「……ま、いいわ。今日はこんなこと言うために来たわけじゃないし」 珍しく委員長の方から矛を収めたんだ。これには明穂も虚を衝かれたらしく、 「どしたの彩乃? 何か悪いものでも食べた?」 真顔で訊いたりする。 「失礼ね、そんなんじゃないわよ!」 そんな明穂を一喝すると委員長は僕の方を向いて、 「それはそれとして、鳩羽君には演劇部〈ウチ〉の手伝いをしてもらいます」 何の脈絡もなく、きっぱりと宣言したんだ。 「「………………はい?」」 たっぷり五秒ほど経過してから、僕と明穂は声を揃えて訊き返した。 つまりは、こういうことらしい。 実はこの日は姫宮学園の年に一度の大イベント、『姫宮祭』のちょうど一週間前に当たっていた。 この日から授業は午前中のみとなり、午後は学園祭の準備に充てられることになる。 要するに、午後はまるまるフリータイムということだ。 「そんな状況でアンタら二人を野放しにしたら、どんな破廉恥な真似しでかすか、考えただけでも恐ろしいわ」 「信用ないな〜〜……いくらなんでも、学園内でえっちするほど私たちも非常識じゃないわよぉ〜〜」 しれっとした顔で明穂が言うと、委員長は今にも食いつきそうな形相で、なぜか僕を睨んできた。 「ははは鳩羽君!!」 「なんで僕が!?」 「そーよぉ、別に私、カズちゃんとえっちしてるって言ったワケじゃないわよ――してないとも言ってないけど」 「人前でえっちえっち言うなぁっ!!」 真っ赤な顔して委員長が叫ぶ。できれば委員長も公衆の面前でえっちとか大声で言うのはやめて欲しい。 「と・に・か・く! アンタら二人を一緒にしとくとロクなことにならないのは実証済みだから――」 だから、相談して決めたのだそうだ。担任の美幸先生と。 即ち―― 「鳩羽君は演劇部の手伝いとして大道具作りをやってもらいます」 「僕が?」 「どうしてカズちゃんが演劇部の手伝いなのよ?」 「仕方ないじゃない。大道具作ったり運んだりするのに男手がいるし、手近で力を貸してくれそうなヒマな男子って言ったら、鳩羽君くらいしか思い付かなかったんだもーん」 「可愛い子ぶるなー!」 今度は明穂が唇を尖らせるが、委員長はそ知らぬ顔で、 「手が必要なのは本当よ。それに、今度のお芝居には野乃崎妹も出ることになってるの。可愛い義妹〈いもうと〉のためにも一肌脱ごうって気にならない? ほらほら、なってきたでしょ、鳩羽君?」 「え、えーと……」 「カズちゃん! そこで説得されてどうすんの!?」 「明穂うるさいっ。大体、さっき実行委員に確認したら、園芸部は何も企画出してないっていうじゃない。することなくてヒマだったら、忙しいところに手を貸してくれてもいいでしょ?」 「むぐぐ……」 委員長の正論に、さすがの明穂も言葉を詰まらせる。 「あ、もちろん園芸部の顧問の先生には、ちゃーんと許可をもらってあるから」 「くっ。あのハゲ、普段は何もしないくせに、どうしてこういうときだけ余計な事を……」 「で、鳩羽君は演劇部〈ウチ〉で借りてくとして、明穂には――」 「先生に協力してもらいますよ〜〜」 声と同時に、明穂の肩にぽん、と手が置かれた。 「み、美幸先生!?」 いつからそこにいたのか、明穂の後ろでにこやかに微笑んでいるのは、我らがクラス担任、白澤美幸先生その人だった。 委員長はもっともらしくひとつ頷くと、 「明穂には、クラス展示の仕事をしてもらうことになってるから」 「なってるからって、勝手にそんなこと決めないでよ!」 「助かりましたよ〜〜、資料のとりまとめをしてくれる人がいなくて困ってたんですけど〜、野乃崎さんが来てくれれば百人力ですからね〜〜」 明穂の抗議をニコニコ笑いながら華麗にスルーする美幸先生。そのまま先生は、顔だけは菩薩のような笑顔のまま、明穂の手首をがしっと掴み、 「それでは行きましょう、野乃崎さん。時は金なりですよ〜〜」 「え? 先生ちょっと待って――」 「あの、美幸先生――」 美幸先生に拉致されそうになる明穂を引き止めようと腰を浮かしたところで、僕の首に細い腕が蛇のようにしゅるっと巻きついた。 「ぐっ……委員長?」 「駄〜〜目、鳩羽君はこっち。うふ♪」 僕の首にヘッドロックをかました委員長が妖艶に笑う。 ……ていうか委員長、背中に何か柔らかいものがふにふに当たってるんですけど、もしかしてソレ、わざとデスカ……? 「こ、こらーーーーっ、彩乃ぉ、初めからカズちゃんが狙いだったのね! 汚いわよ!!」 美幸先生に引きずられていきながら、明穂が手足をジタバタさせる。 「ほーっほっほっほっ! 何とでもお言い、勝てば官軍なのよ!」 口元に手を当て、まるっきり悪役のノリで高笑いする委員長。 「卑怯なり、香坂彩乃! ええいっ、覚えてなさい! 呪うわよ! 黒魔法かけてやるからねっ」 「ほーっほっほっほっ!」 「あ、明穂ぉ〜〜〜っ!」 「カズちゃ〜〜〜ん! やだやだやだぁ、カズちゃんと離れたくないよぉぉぉ〜〜〜っ……!!」 呼び交わす声がむなしく学食にこだまする。伸ばした手と手は、しかし触れ合うことすら許されず―― 残酷かつ無慈悲な運命の前に、哀れな恋人たちはなすすべもなく引き裂かれ、そして―― …………… ………… ……… ……そして、まあ。 結局、僕と明穂はその後、それぞれ委員長と美幸先生の監視の下、嫌というほど労働奉仕を強いられ―― ――家に帰るまで別行動を余儀なくされたんだ。 ……勘弁して欲しいよ、まったく。 (つづく) ![]() ↑このパート、まだ続きます(焦 web拍手を送る |
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| 内 容 | ニックネーム/日時 |
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おおお、新作がこんなに早く。ありがたやありがたや。 |
mata 2008/06/03 21:40 |
mataさんへ |
miya 2008/06/04 22:21 |
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