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午後二時四十五分―― いつもなら一日のうちで一番眠くなる時間帯。 しかし姫宮祭を五日後に控え、学園は今日も尋常でないハイテンションな活気に沸き返っていた。 「鳩羽先輩、ちょっと見てもらえますか?」 それはここも同じなわけで。 「この木の色なんですけど、こんな感じでどうでしょうか?」 「いいんじゃないかな。あと、黒で少し影をつけると、幹の質感がもっと出ると思うよ」 「はいっ、ありがとうございます!」 体育館前の、渡り廊下に面したこの辺りは、現在、演劇部の作業スペースとなっている。 「鳩羽先輩、ここの釘打ち、手伝ってほしいんですけど」 「ちょっと待って。すぐ行くから」 そして僕はといえば、演劇部の一、二年生から成る道具担当の女子生徒と一緒に、劇で使う大道具の制作に追われていた。 本来僕は部外者で、あくまで助っ人として参加するだけの筈だったのだが、気が付けばなぜか僕が全ての作業を取り仕切っていたりする。もしかしてこれも委員長の罠なのだろうか。 『……! ……!!』 女の子達の声高に話す声や、角材を切ったりトンカチを叩く音。それらに混じって、締め切った体育館の扉の向こうからは、稽古に励む委員長やつばさ達の声が、切れ切れに聞こえてくる。 来たるべき学園祭に向けて、稽古にも一段と熱が入っているようだ。 僕達は体育館の中と外で、それぞれが自分の担当する仕事に精を出していたんだ。 ただ、まあ、中には―― 「ったくよぉ、何で俺までこんなことやらなきゃならねえんだよ……」 ――こういう例外もいたりするんだけど。 「東先輩、いつまでも文句言ってないでちゃんと働いてください」 「そうですよ。少しは鳩羽先輩を見習ってください」 「だーっ! うるせぇぞお前ら、二言目には一樹一樹って。だいたいなぁ、一樹!」 我が悪友、東直之が憤懣やる方ないといった様子で睨んできた。 「俺がこんな所にいるのも、元はといえばお前と野乃崎がワガママ言ったからだろうが!!」 「え、えーと……」 それに関しては全くその通りなので僕としては反論のしようがない。 「東先輩、鳩羽先輩をいじめないでください!」 「そうですよ。そんなヒマがあったら少しは仕事してください」 「鳩羽先輩がかわいそうじゃないですか!」 代わりに女の子達が直之に集中砲火を浴びせてくる。 「くーっ、なんでいつもいつも一樹ばっかり……チクショーッ!!」 「は、はは……」 苦笑するしかなかった。 もしらばAnotherStory 彼女はたぶん魔法を使う その4 presented by miya ☆10/4(水) 彼女はたぶん秘密が多い 前編 「なあ、一樹よ」 僕の横でベニヤ板にペンキを塗りながら直之が言った。 「俺はお前と野乃崎が万年発情期の色ぼけカップルになっちまったことを、今さらとやかく言うつもりはねえ」 「万年発情期って、あのね……」 「例の海での一件以来、お前の所有権を巡って委員長が野乃崎に宣戦布告して、仁義なき戦いが勃発しちまったのも、この際目をつむろうじゃないか」 僕の控え目な抗議を華麗にスルーして先を続ける直之。 「けどな」 刷毛を動かす手を止めると、微妙に不穏な視線を向けてくる。 「な、何だい直之君……?」 「頼むから、お前らの痴話喧嘩に俺を巻き込むのだけは止めてくれ!!」 「はははは…………………ごめん」 僕は素直に頭を下げた。 明穂と委員長の取り決めで、僕は三時になったら園芸部に戻ることになっている。当然、それ以降も僕の助力を当てにしていた委員長は不満である。 そこで、僕の抜けた穴を埋めるために白羽の矢が立ったのが直之という訳だ。 「ったくよー、イヤな予感はしてたんだ。今日は朝から縁起の悪いことが続きやがるしよぉ……」 ペンキ塗りを再開した直之がぼやく。 「登校中に霊柩車とすれ違うし、休み時間にトイレに行こうとしたらなぜか目の前を黒猫が横切りやがる。おまけに数学の時間に宿題忘れてエノケンに説教食らうし」 「直之、最後のは縁起がいい悪いとは関係ないと思う」 「それでやっと授業が終わったと思ったら、委員長に無理矢理こんな仕事押し付けられちまうんだもんなぁ……今日の運勢、最悪だぜ」 「ご愁傷様。でも直之はサッカー部で何かやるんでしょ。断ることもできたんじゃない?」 「断ったさ。模擬店の準備があるから無理だって」 「それで?」 「面倒なことは全部後輩に押し付けて、どうせアンタら三年生は何もしないんだから、それだったら演劇部の仕事手伝え、だとよ」 「違うの?」 「いや、それはまあ、違わねえけどよ……とにかくだ!」 直之が身体ごと僕の方に向き直った。 「毎回毎回お前らの三角関係バトルのとばっちりを食らうのは、俺としては金輪際御免蒙りたいワケよ。だから――」 ずい、と身を乗り出してくる。 「わっ!? 直之、刷毛こっちに向けないでよ」 「そんなこたどーでもいい――一樹、お前とっとと野乃崎と結婚しろ」 「はあ?」 「なんだよその間の抜けた返事は。お前野乃崎と結婚したくないのかよ?」 「それは……いつかはしたいとは思ってるけど」 「いつかなんてまだるっこしいこと言ってんじゃねえ。今すぐ結婚しろ」 「そ、そんな無茶な……」 「何が無茶なもんか。お前十八だろ? 法律的には何の問題もないだろうが」 「それはそうだけど」 何だってそんなに慌てて僕と明穂を結婚させたがるのだろう? 「お前らが名実共に夫婦になっちまえば、委員長だって諦めがつくだろうさ。今みたいに中途半端な状態だから、アイツも望みを捨てきれずに、色々ちょっかいかけてくるんだぜ」 「う〜〜ん……そうかなー」 むしろもし今僕と明穂が結婚したら、余計に荒れて手がつけられなくなるんじゃないかという気がするのだが。 「一樹、お前は知らないかもしれないがな、委員長が野乃崎に喧嘩吹っかけて凹まされる度に、そのとばっちりがどこにくると思う? この俺様なんだよ」 「え、そうなの?」 「そうなの。まさかお前や演劇部の後輩に当り散らすワケにもいかないだろ? でもな、だからって、この俺がヒステリー起こしたアイツのストレス解消の道具にされていいって法はねえ」 「あ、あの、直之――」 「ったく、アイツもいい加減現実を認めてスパッとお前のことを諦めてくれりゃ俺も心の平和を取り戻せるんだけどな。いつまでも未練たらしくお前と野乃崎の間に割り込もうとするから」 「だから直之、その――」 滔々とまくしたてる直之の背後に現れた人物に気づいて、近くで作業していた女の子達がモーゼの十戒のように右と左にサーッと退いていった。 「アイツが野乃崎にヤキモチ焼く気持ちもわからなくはないけどよ、あんまり度が過ぎるとみっともない――」 「アイツって誰?」 「誰って、そりゃお前委員長に……」 言いかけた直之が、声の主の正体に気づいてギクリと身を震わせる。 「決ま……って……」 そろそろと、ホラー映画の犠牲者がよくやるような仕草で振り向けば、 「ふ〜〜ん、そうなんだ」 そこには、不自然にひきつった笑みを顔に貼りつかせたまま、ポキポキ指を鳴らす委員長の立ち姿。 「アタシは明穂にみっともなく嫉妬してる、諦めの悪いヒステリー女だと、東君はそう言いたいわけね」 「い、いや、その、委員長、これは――」 「遺言があれば聞くわよ♪」 「し、失礼しましたーーっ!!」 「待て! そこへ直れ、東直之ぃ〜〜っ!!」 脱兎のごとく駆け出す直之を、憤怒の形相も凄まじく追いかける委員長。 成仏しろよ、直之。 思わず両手を合わせる僕の前に、 「お兄ちゃん、お疲れ様」 紙コップのウーロン茶が差し出される。 振り向くとそこに、明穂の妹にして僕の義妹〈いもうと〉でもある野乃崎つばさが立っていた。 「ありがと。稽古はもう終わり?」 「まさか、今は休憩中だよ」 つばさそう言うと苦笑混じりに委員長の方に目を向け、 「この後も足腰立たなくなるまでガンガンやるから、今のうちに一休みしとけって部長さんが言ったから……」 さすがは体育会系演劇部。 もっとも、そう下知した当の本人は、直之を追い掛け回したりして全然一休みになっていないが。 そんな訳で、作業は一時中断して小休止。道具担当の女の子達も、他の出演者の子も、飲み物片手に思い思いの場所に座って談笑モードに入っている。 僕もつばさを誘って、手近の木の陰に腰を下ろした。 「それで、稽古の方はうまくいってるの?」 「まあまあ、かな。始まりが遅かったからスケジュール的には結構キツいけど」 前につばさに聞いた話だと、今年はギリギリまで演目が決まらず、そのため稽古の日程をはじめいろいろな予定が大幅に狂ってしまったとのこと。 だからこそ、部員でもない僕まで臨時に動員された訳なのだが。 「お兄ちゃんは? そろそろ園芸部に行くんでしょ」 「ああ、そうだね」 腕時計で確認するとあと十分程で交替の時間だった。 「これを飲んだら委員長に断って温室に戻るよ」 「行ったり来たりで大変だね、お兄ちゃんも」 「ま、半分は好きでしてる苦労ですから」 「その半分っていうのはお姉ちゃん? それとも部長さんの方?」 「……」 つばさらしからぬ鋭いツッコミに、一瞬返答に詰まってしまった。 「はぅ……東先輩の言うことも、少しは当たってるような気がしてきたよ」 どうやら委員長だけでなく、つばさもさっきの直之の話をしっかり聞いていたらしい。 「直之が何だって?」 「早くお姉ちゃんと結婚した方がいいって話」 妹よ、キミまでそれを言うか? 「……さすがに学生結婚はちょっと無理があるでしょ」 明穂が聞いたら「これが本当の『奥様は十八歳』だわ♪」とか言って喜びそうな気もするが。 「別に今すぐどうこうしろってわけじゃないけど」 微妙に口調が不機嫌なのは気のせいだろうか。 「お兄ちゃんとお姉ちゃんのあんな様子を毎日見せつけられたら、いっそ二人が結婚してくれた方が諦めもついて楽になるのにって部長さんが思うのも、無理はないと思うよ」 「こらーっ、野乃崎妹ー! 勝手に人の気持ちを想像するなーっ!」 直之にバキバキと卍固めをかけながら委員長が怒鳴る。相変わらずの地獄耳だ。 「……めが……くのは……わたしも……じだから……」 「え? 何か言った?」 委員長の方を見ていて、つばさが小声で呟いたのを聞き漏らしてしまった。 「なんでもない――そんなことより」 つばさはこの話はもうお終いと言うように軽く首を振ると、 「お姉ちゃん大丈夫? 佐倉さんと仲良くやってる?」 全然違うことを訊いてきた。 「気になる?」 「なるよ、もちろん。佐倉さんが園芸部の手伝いに行ったのは、単なる交換トレードでも部長さんがお姉ちゃんに塩を送った訳でもないってみんな言ってるし」 明穂と委員長のこれまでの経緯を知っている人なら、それくらい容易に想像がつくだろう。 「お姉ちゃん、お兄ちゃんのことになると周りが見えなくなるから。『委員長の回し者め、手討ちにしてくれる!』とか言って佐倉さんを困らしてるんじゃないかって思って……」 「あのね。いくらなんでもそれはないよ。珠美ちゃんじゃないんだから」 「お兄ちゃん、それ、たまちゃんに失礼だよ」 「はは、悪い悪い。でも、つばさの言ってることも、明穂が聞いたら気を悪くするんじゃないかな」 「あぅ……それはそうだけど」 「大丈夫、明穂なら心配いらないよ」 つばさに笑いかけながら、僕は昨日のことを思い出す。 正直に言えば、佐倉さんが温室にやってくるまで、僕も同じような不安を抱いていた。僕と明穂を二人きりにさせまいという委員長の意向で寄越された子を、明穂が歓迎するとは思えなかったからだ。 でも、いざ蓋を開けてみたらそれは全くの杞憂だった。最初こそ多少のぎこちなさは見られたものの、明穂と佐倉さんが打ち解けるまでそれほどの時間は要しなかった。 「野乃崎先輩」「佐倉さん」と呼び合っていた二人が、演劇部の手伝いを終えて温室に戻ってきたら、「明穂さん」「マリーちゃん」と昔からの友達みたいにすっかり意気投合してたのには、ちょっと驚いたけどね。 『でも明穂、マリーちゃんって何だか外人さんみたいな呼び方じゃない?』 どこからどう見ても和風美少女な佐倉さんをちらりと見て僕は言ったが、明穂は平然と、 『だって、麻里ちゃんじゃ呼びにくいんだもの。それに、マリーちゃんだってこの呼び方を気に入ってくれたのよ。ねー、マリーちゃん♪』 『はい。友達はみんな私のことマリーって呼ぶので、明穂さんにもそう呼んでほしいです』 『というわけで〜〜、これからはカズちゃんもこの子のことマリーちゃんって呼ぶのよ。いいわね?』 『なんで僕まで!?』 『だーめ、異論は許しません♪ 部長命令よ』 すごく嬉しそうに明穂は理不尽な命令を下した。 「……なんか、意外な感じだよ」 僕の話を聞いたつばさは、半分安心して半分納得がいかないような、微妙な顔をしていた。 「そうかな? 明穂らしいと思うけど」 確かに佐倉さんは「委員長の間者」みたいな立ち位置にいる子だけど、明穂は昔から、自分の気に入った人のことは無条件に受け入れるような、器の大きいところがあったんだよな。 「違うよ。私が言ってるのは佐倉さんのこと」 「佐倉さん?」 「演劇部にいるときとイメージが違うなと思って」 よくわからなかった。 「あのね、佐倉さんって、演劇部ではほとんど誰とも話さないんだよ。いつも隅の方で静かにしているの。私、あの子が誰かと喋ったり笑ったりしてるとこ、見た記憶がないよ」 「それは……確かにイメージが違うね」 温室で見た佐倉さんは別にお喋りでも快活でもなかったが、それでも仕事をしながら明穂と楽しそうに話をしたり、笑ったりしていた。 「それだけ明穂と、気が合ったってことかな」 「だったら、園芸部の手伝いに行ってよかったと思うよ。お姉ちゃんが佐倉さんの友達になってくれれば、佐倉さんも喜ぶと思うし」 「そういえば佐倉さんって、つばさと同じクラスなの?」 「ううん。佐倉さんは隣のクラス」 そう言うと、つばさはちょっと声を低めて、 「クラスでもやっぱり浮いてるみたいだよ」 「友達がいないとか?」 「うん。けいちゃんが――あ、隣のクラスの子なんだけど、そう言ってた」 「まあ、ちょっと内気で、自分から友達を作るようなタイプじゃなさそうだけどね」 「それもそうだけど、けいちゃんの話だと、佐倉さんの方から周りを避けているところがあるみたいなんだって。あのね、佐倉さんって、転校生なんだよ。それも、今年の5月に転校してきたの」 それはまた、中途半端な時期に転校してきたものだ。 「てことは、前の学校を入学して一か月くらいで辞めたってことか」 「うん。それでいろいろ変な噂も流れたみたい。何か問題を起こして退学させられたとか、イジメで前の学校にいられなくなったとか。佐倉さんが周りを避けてるのも、そういう事情を知られたくないからだって」 嫌な話だ。 「根も葉もない噂に振り回されてるのか……可哀想だね」 「でも、確かに変わった子ではあるんだよ」 「つばさまでそんなこと言うの?」 「あぅ……ごめんなさい。でもね、転校のこともそうだけど、佐倉さんが演劇部に入部したのって、二学期に入ってからなんだよ。別に誰かに誘われた訳でもないのに」 「途中でクラブに入るのがそれほど珍しいとも思えないけど」 「佐倉さんって、演劇部に向いてると思う?」 「それは……」 舞台に立ってオフィーリア役を演じている佐倉さんを想像しようとしたが、それこそイメージが湧かなかった。 「私が言うのも何だけど、佐倉さんって恥ずかしがり屋で引っ込み思案で、とても演劇に向いてるとは思えないの。なのに、なんで自分が一番向いてなさそうなクラブに入ったのかな」 時期外れの転入。周囲から距離を置いて交わろうとせず、半年近くたってから自分の適性とは正反対のクラブに入部する―― そう考えると、佐倉さんって、結構謎の転校生なのではなかろうか。 「話は変わるけど、二学期って言えばよ」 ようやく委員長の魔の手から逃げてきたらしい直之が、唐突に会話に割り込んできた。 「なんだ、聞いてたの直之?」 「いいだろ、別に。お、つばさちゃん、俺にもお茶ちょうだい」 つばさの隣に腰を下ろすと、直之はペットボトルのウーロン茶を勝手に紙コップに注いでゴクゴクと飲んだ。 「プハ〜〜ッ、生き返ったぜ」 「それで、直之。二学期がどうしたって?」 「おうよ、二学期に入ってから、この姫宮界隈に変な奴が出没してるらしいんだが、一樹、お前知ってるか?」 「変な奴って、変質者とかそういうのですか?」 つばさに訊かれて、直之はニヤリと笑うと、 「そういう意味の変な奴じゃないよ、つばさちゃん。そいつは――」 期待を持たせるように一拍置いて、言ったんだ。 「――魔法少女だ」 「それでつばさ、さっきの話だけど」 「あーっ、一樹てめー信じてねーな!」 ていうか、それで信じてもらえると思う方がどうかしてる。 「東先輩、魔法少女って、箒に乗って宅急便届けにいくあれのことですか?」 「つばさも真面目に相手しないの」 大体それは魔法少女と違うだろ。 「あら、鳩羽君。その噂ならアタシも聞いたことがあるわよ」 「委員長?」 「今は部長と呼んでよね。あ、野乃崎妹、お茶もらうわよ。バカの相手してたら喉が渇いちゃって」 僕の隣に腰を下ろすと、委員長はペットボトルのウーロン茶を勝手に紙コップに注いでゴクゴクと飲んだ。 「プハ〜〜ッ、生き返ったわ」 「委員長もその魔法少女のこと信じてるの?」 「信じる信じないはともかくとして、そういうのを見たって人がいるのは事実みたいよ」 直之と委員長の話をまとめると、こういうことになる。 最近、というのは9月になってからのことだが、姫宮の街で何度かその、「魔法少女」とやらが目撃されるようになったのだそうだ。 証言によると件の魔法少女が出没するのは決まって夜で、セオリー通り箒に乗って現れるらしい。 で、その魔法少女だが、黒のマントにつばの広い黒のトンガリ帽子というところまではおとぎ話に出てくる魔女と同じ格好なんだけど―― 「一言でいや、SMの女王様みたいなスタイルだな」 「は?」 「だから何ていうの、ほら、ボンデージファッションってやつさ」 黒皮のロングブーツに長手袋、それとやたらに露出度の高い黒皮の服を身に着けているとのこと。 話だけ聞いていると、魔法少女というより、戦隊ものの特撮番組に出てくる悪の組織の女幹部みたいな感じだ。 「ただのコスプレ好きの女の子じゃないの?」 「今時のコスプレ女がこんなちっぽけな街で、それも人目の少ない夜にコスプレなんかするか?」 「そもそも、ただのコスプレ少女は箒に乗って空を飛んだりはしないわ」 ごもっとも。 「顔はわからないの?」 「それがバタフライマスクで顔を隠してるんだそうだ。なんか、ますます女王様っぽいよな。ただ、目撃者の話だと金髪で青い目をしてるっていうから、外国人じゃないかって言われてる」 金髪碧眼で、SM風コスチュームに身を包んだ、コスプレオタクっぽい(たぶん外国人の)魔法少女―― 限りなくお近づきになりたくないキャラクターだ。 「でも、その人は何をしに来るんですか?」 つばさが至極もっともな質問すると、委員長は首を傾げて、 「それがよくわからないのよねえ。別に何か悪さをしてるわけでもないらしいんだけど」 「俺の聞いた話だと、木から下りられなくなった猫を下ろしてやったり、荷物が重くて歩道橋を渡れない婆さんを箒に乗せて、道路の反対側に連れてったりしたらしいぜ」 「てことは、困った人を助けるいい魔女さんなのかな、お兄ちゃん?」 「魔法使いの人助けにしてはスケールが小さいような気もするけどね」 苦笑を洩らした僕に、直之はフンと鼻を鳴らした。 「一樹、やっぱりお前信じてねえだろ?」 「だって、魔法使いでしょ? 今の世の中にそんな非現実的な存在なんて、ちょっとね。無理があるんじゃない?」 「ハッ、夢のねえ男だなあ」 「ごめんなさい、東先輩。お兄ちゃん、幽霊とか神様も信じてないから」 「鳩羽君って、意外と保守的なのねえ」 などと、結構どうでもいい話題で盛り上がっていると、 「?」 上着のポケットに入れてある携帯が鳴った。 この着信音は―― 「明穂?」 『うん、私! あきほ、で〜〜す♪』 耳に心地よく響く、恋しい人の元気一杯な声。 「どうしたの? 何かあった?」 『ううん、そうじゃないけど。そろそろ交代の時間でしょ』 「あ、うん。今、そっちに行くよ」 『いいのいいの、カズちゃんはそこで待ってて。私が迎えに行くから』 迎えにって、温室は体育館の裏手にある訳で、わざわざ迎えに来るような距離でもないのだが。 浮き浮きと弾むような明穂の声に、微かに不穏な気配を感じ取ったのは、さすがに十年近い時間を共に過ごしてきた者の直感みたいなものだった。 「明穂、何か変なこと企んでないだろうね」 『フッフッフ〜〜ッ……もしそうだとしても、もう手遅れかもよ』 「手遅れって、明穂、今どこにいるの!?」 『うふふふふ……ココよ』 携帯を通して、熱い吐息が僕の耳に吹きかけられるような気がした。 『カズちゃんの、そ・ば・に♪』 言い終えると同時に、 「カズちゃ〜〜ん!!」 体育館の角を曲がって、携帯電話を耳に当てた明穂が、もう片方の手を大きく振りながら姿を現した。 現した……んだけど―― 「ぐはっ!」 「お、お姉ちゃん……!?」 「明穂……ア、アンタ、なんて破廉恥な!!」 「は、ははは……は」 その姿を一目見て、のんびり休憩中だった演劇部に、ちょっとした激震が走ったんだ。 なぜって―――― (つづく) ![]() ↑長くなりすぎでヤバス(汗 web拍手を送る |
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| 内 容 | ニックネーム/日時 |
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引きを作るなんてひどいッス!(爆 |
mata 2008/07/13 22:37 |
mataさんへ |
miya 2008/07/14 23:38 |
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