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zoom RSS 秋の夜長はミステリー

<<   作成日時 : 2009/11/15 21:16   >>

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ただし、小説じゃなくて映画の方だけどね。

というわけで、備忘録にも書きましたが、ここ数日の間に見た映画の感想。

・「ロング・グッドバイ」(監/ロバート・アルトマン)
レイモンド・チャンドラーの傑作「長いお別れ」の映画化。この題名、公開された当初は、「なんでタイトルが『長いお別れ』じゃなく原題のままなんだ」とファンからは評判が悪かったそうです。

原作は最近、天下の村上春樹が新たに訳したバージョンが出版されて話題になりました。そのタイトルがなんと、「ロング・グッドバイ」。さすがはノーベル文学賞候補にもなった村上春樹。ファンの神経を逆なでしまくりですw
しかもこの男、「長いお別れ」と並ぶチャンドラーの代表作「さらば愛しき女(ひと)よ」を、今年、新訳で出したのですが、そのタイトルは、「さよなら、愛しい人」(笑 どうもこの人とは、日本語のセンスが決定的に合わなさそうな気がしますw
これはまた聞きですが、この人、「ロング・グッドバイ」が新書化された際に、原稿用紙90枚分という気合いの入った「訳者あとがき」を書いたんですけど(僕は未読)、その中で一度も「ハードボイルド」という言葉を使わなかったそうです。もし本当なら、素晴らしく腹の黒い人ではないかと思います。

閑話休題。肝心の映画の方ですが、監督のロバート・アルトマンも、村上春樹に負けず劣らずいわゆる「ハードボイルド」に屈折した感情を抱いているようです。完成した映画を見ればそれは明らか。
実際、この映画が公開されたときは、チャンドラーのファンからは総スカンを食らったらしい。時代設定を原作の1950年代から70年代に移したこと、ストーリーの大幅な変更、エリオット・グールド扮するフィリップ・マーロウが原作のイメージとあまりに違いすぎること、そして何より、原作と真逆な、ある意味衝撃的なラストの展開。当時リアルタイムでこれを見たファンの失望と怒りは、村上春樹の新訳の比ではなかっただろうことは、想像に難くありません。

で、その上で言うけど、僕自身はこの映画凄く好きなんですよね。

ココを見ると、松田優作が小鷹信光の「探偵物語」をTVドラマにするとき、この映画にインスパイアされたって書いてあるけど、確かにそうだと思う。工藤ちゃんが「探偵物語」の中でよくやる、ジャンプして両足をパンパン打ち鳴らすやつ、あれ、ラストでエリオット・グールドのマーロウがやってるのの真似だもの。

ただ誤解して欲しくないのは、この映画、確かにエリオット・グールドのマーロウは原作のようにカッコよくない。「ギムレットには早すぎる」「さよならを言うのは、少しの間死ぬことだ」という、歯の浮くような名セリフも出てこない。それでも、この映画はまぎれもなくハードボイルドの名作だと思う。ほんと、どの場面を切り取っても名場面になるような映画なのですよ。確かに屈折してひねくれてはいるけど、アルトマンは70年代という時代の中で紛れもないハードボイルドを撮ろうとしたのではないでしょうか。
この映画の直後に、ロマン・ポランスキーが同じくハードボイルド映画の傑作「チャイナタウン」を撮っていますが、こちらは同じLAでも1930年代の話になっています。両者を見比べてみると、アルトマンがなぜ現代(70年代)のロサンゼルスにこだわったのかが見えてくるような気がします。

ちなみにこの映画のシナリオを書いたリー・ブラケットという人は、後に「スター・ウォーズ/帝国の逆襲」も手がけたベテランですが、1946年に、同じチャンドラーの「大いなる眠り」の映画化「三つ数えろ」の脚本にも関わった経歴を持つ女性です。

で、↑にも書いた例の原作と180度違う結末ですが、原作ファン激怒必至のあの終わり方は、ひねくれ者のアルトマンのアイデアだとばかり思ってたのですが、ココを見たら、なんと、リー・ブラケットのシナリオのまんまだそうで。このラストを気に入ったアルトマンは映画会社と契約を交わすとき「シナリオのラストを変えないこと」を条件に入れたそうです。男同士の友情を切なくほろ苦く描いた原作に対し、シビアに突き放した感のある映画のラスト。それを書いたのが女性だというのがちょっと意味深ですね。

う〜〜ん、この映画について語るときりがないんですよね。猫のこととか犬のこととか、ヘンなギャングのボスを演じたマーク・ライデルのこととか、そのボスの子分役で出てた無名時代のシュワちゃんのこととか。



などと言いつつ、そろそろ長い文章を書くのもしんどくなってきた(マテ ので、いつものように以下、箇条書き。事件の謎とか真犯人とかネタバレを含むのでその辺注意してね。



↓  ネ  ↓  タ  ↓  バ  ↓  レ  ↓  注  ↓  意  ↓











・字幕の翻訳にはいろいろと不満がある。意訳抄訳は仕方ないにしても、主人公の名前がフィリップ・「マーロー」になっているのだけは最後まで違和感があった。以前、「ロード・オブ・ザ・リング」の字幕(訳/戸田奈津子)に原作ファンからクレームがついたことがあったが、それも無理ないと思うぞ。ちょっと調べれば分かることなんだから、こういうところには気を遣って欲しい。

・DVDはピクチャーディスクになっていて、くわえ煙草のマーロウがベレッタM92を手にしているが、本編でマーロウが使うのは普通のリボルバー。

・劇中でマーロウが乗ってる車はエリオット・グールドの私物らしい。

・この映画のマーロウはのべつまくなしにタバコを吸っている。今じゃとてもできない描写。禁煙中の人は見ない方が吉。

・タバコを吸うシーンで、マーロウはマッチ箱がなくても火の着く蝋マッチを使っていた。

・↑にも書いたシュワちゃんだが、エリオット・グールドと並ぶとグールドの方が背が高かったw そのグールドよりもさらに大柄だったのが作家ロジャー・ウェイド役のスターリング・ヘイドン。この人スティーブン・セガール並に背がデカい。ていうかそれくらいデカそうだからこそこの役をオファーされたんだと思う。理由は後述。

・原作はやたらと登場人物が多いこともあって話が入り組んでいた。映画版は思い切って登場人物を整理し、シンプルな物語となったがその割に筋がわかりにくい。

・「ロング・グッドバイ」のわかりにくさは、主人公マーロウの内面を台詞ではなく彼の行動で描こうとしているところに起因している。主要な登場人物もTVの2時間サスペンスのように1から10まで丁寧に説明してくれるわけではなく、しかも彼らの言ってることが常に真実とは限らないので余計にややこしくなる。

・この話の筋を、客観的な事実のみで説明すると以下のようになる。
(ストーリー全部バラすから、気になる人は先に映画を見よう)


1)ある夜、マーロウの元を友人のテリーが訪れ、「トラブルに巻き込まれたのでメキシコに逃げる。手を貸してくれ」と頼む。マーロウは了承し、テリーを途中まで送っていく。
2)翌朝帰宅したマーロウは警察に連行される。そこで彼はテリーが妻を殴殺した容疑で追われていることを知る。
3)テリーの無実を信じるマーロウは彼の逃亡先を言おうとせず、逃亡幇助で留置場に入れられる。
4)数日後、テリーが逃亡先のメキシコで自殺したという知らせが入り、マーロウは釈放される。
5)マーロウの元に、作家ロジャー・ウェイドの妻、アイリーンから、行方不明になった夫を探して欲しいとの依頼が舞い込む。よく見るとアイリーンの頬には明らかに殴られたと思しきアザがある。ウェイド夫妻はテリーの家の近くに住んでおり、アイリーンはテリーを知っていた。
6)依頼を受けたマーロウは、ロジャーが重度のアルコール依存症であることから、近くの療養所に当たりをつける。
7)その夜、療養所に忍び込んだマーロウはロジャーを発見し家に連れ帰る。
8)帰宅したマーロウは、テリーの雇い主であるギャングのボス、マーティとその一味に捕まり、テリーが持ち逃げした35万ドルを返せと脅される。
9)見張りを残して帰るギャング一味。見張りの目をごまかし、マーロウは車で一味を尾行する。一味はウェイド宅へ向かう。マーティとアイリーンが押し問答してるのを目撃するマーロウ。
10)翌日、再びウェイド宅を訪問するマーロウ。ロジャーはもう何年もスランプで小説を書けず、酒に溺れていた。アイリーンはロジャーと別れたがっているがロジャーは承知しない。ロジャーと酒を酌み交わすマーロウ。ロジャーはテリーのことをよく思ってはいない。昨夜ウェイド宅をマーティが訪れたことを告げると、マーティはロジャーに5万ドルの借金があるとのこと。
11)テリーが死ぬ前に出したと思しき手紙が届く。中には「すまない」という一言と5千ドル札が一枚。
12)メキシコに調査に行くマーロウ。地元警察でテリーが自殺したときの状況を聞く。
13)ウェイド宅のパーティに呼ばれるマーロウ。そのさなか、6)の療養所の所長が訪れ、ロジャーに金を払えと要求する。押し問答の末ロジャーは金を払うが、その直後急に激昂しパーティに来ていた客を全員追い返す。マーロウも帰ろうとするが夫が精神的に不安定になっていることを心配するアイリーンに引き止められる。
14)アイリーンに夕食を振舞われるマーロウ。なんとなくいい雰囲気。
15)と思いきやここでマーロウは己の推理を述べてアイリーンを問い詰める。ロジャーはテリーの妻と不倫していたのではないか。そして何かのきっかけで諍いになり、彼女を殴り殺してしまったのではないか。恐ろしくなったロジャーは療養所の所長に助けを求め、アリバイを作ってもらったのではないか。所長が要求した金はそれに対する報酬ではないのか。
16)最初は否定していたアイリーンだがマーロウの追及に彼の推理を認める。ロジャーは長年に及ぶアルコール依存症からときどき自分でも理解できない行動をとる。マーティに貸した5万ドルの話もアイリーンに言わせると嘘で、本当はロジャーがマーティから1万ドル借りているとのこと。
17)2人が話していると、突如、ロジャーが家を出て、フラフラと夜の海に入っていくのが見える。慌てて後を追うマーロウとアイリーン。だが海岸は風が強く波も高くロジャーに追いつけない。いつしか夜の海に消えていくロジャー。
18)警察がロジャーの遺体を捜索する中、事情聴取を受けるマーロウとアイリーン。マーロウは刑事にロジャー犯人説を力説するが信じてもらえない。怒ったマーロウは自分はテリーの無実を信じると叫ぶ。
19)ギャングのマーティに呼ばれるマーロウ。消えた35万ドルの行方を問い詰められるもマーロウは答えようがない。テリーから送られた5千ドル札が見つかりピンチになる。
20)と、オフィスの外から子分がマーティを呼ぶ。しばらくして戻ってきたマーティは打って変わった上機嫌で自分の非を認めマーロウに謝罪する。帰り際にマーロウが見たものは何者かがボスのところに届けた35万ドルだった。
21)ボスのもとを辞したマーロウは、アイリーンが車に乗って走り去ろうとするところを目撃する。追いかけるマーロウ。マーロウを翻弄するように車を走らせるアイリーン。
22)アイリーンを追いかける途中で対向車に跳ねられるマーロウ。
23)病院で目を覚ますマーロウ。医者の許可なく勝手に病室を出る。出掛けに隣のベッドの患者から小さなハーモニカをもらう。
24)ウェイド宅に向かうと家は売り屋になっており、アイリーンの行方も分からない。
25)再びメキシコへ向かうマーロウ。テリーから届いた5千ドル札を「寄付」として地元警察の警官に握らせ、真実を聞き出す。
26)テリーの自殺は偽装だった。テリーの潜伏している町外れの廃屋に向かうマーロウ。
27)遂にテリーと再会するマーロウ。
28)マーロウの追及にテリーは真実を話す。浮気をしていたのは実際はテリーとアイリーンだった。そのことが妻にばれ、マーティの35万ドルをネコババしようとしてることを警察にチクると言われたテリーは妻を殴り殺した。
29)「しかたがなかったんだ」と言うテリーに、マーロウは「警察で写真を見たが顔が潰れていたぞ」と厳しい表情で答える。
30)金と自由を手に入れるために、テリーは自分の死を偽装することにした。そのために利用されたのがマーロウだった。
31)「君を信じていたのに、ひどいやつだ」詰るマーロウ。
「君みたいな負け犬には分かるまい」平然と嘯くテリー。
「そうだな」言うと同時に銃を抜き、無造作にテリーを射殺するマーロウ。
32)一人、帰路につくマーロウ。と、テリーのところへ向かうのか、車に乗ったアイリーンがこちらへやってくる。
33)マーロウに気付いたアイリーンがハッとしたようすで車を止める。が、マーロウはそちらには目もくれない。すれ違う直前、病院でもらったハーモニカをくわえたマーロウは、曲を吹き鳴らしながら飄然と去っていく。
34)映画「ショウほど素敵な商売はない」で使われた軽快な曲、「フレー・フォー・ハリウッド」が流れ、エンディング。


・↑猫の話とか隣人の変な女の子達とか端折った部分もあるが、極力主観を交えずストーリーを説明したつもりである。さてさて、これでお話がご理解いただけただろうか。

・要所で「?」となるところがあると思いますが、それについては、機会があればまた検討してみたいです。一応自分なりの解釈はあるのですが、監督もマーロウも細かいことはあまり気にしてないみたいなので無用な掘り下げはかえってヤボな気もしますけどね。

・「ロング・グッドバイ」とは直接関係ないですが、いかにもハードボイルドの物語らしい逸話を一つ。「大いなる眠り」の映画化、上述の「三つ数えろ」の撮影中のこと。マーロウ役のハンフリー・ボガートは、途中で起こった殺人事件の犯人が誰なのか、シナリオのどこにも書いてないので監督に質問しました。でも監督にも分かりません。シナリオライターに確認したところ、「自分も書きながら誰が殺したのかわかりませんでした」との答え。そこで監督が原作者のレイモンド・チャンドラーに聞いてみると、「実を言うと私もわからない」(笑

・最後に、マーロウ役のエリオット・グールドがね、ホント、カッコいいのよ。松田優作が惹かれたのも分かる。馬面でモジャモジャ頭(「カウボーイビバップ」のスパイクをもう少しオジサンにした感じか)でお世辞にも二枚目とはいえないし、いつもよれよれのスーツに細身のネクタイをだらしなくぶら下げた格好で見てくれもよくない。ふざけてるのか真面目なのかよくわからないしヘラヘラしてる割に底の知れないところがあるしと、原作のマーロウとは全然違うキャラだけど。だけど。見ているうちにこのマーロウがどんどんカッコよく見えてくるからアラ不思議。アルトマンが言っていたように、もしマーロウが1950年代ではなくこの時代に生きていたら、こういうマーロウだったんじゃないかって感じががとても良く出ていたと思います。必見。






↑久しぶりに気合入れて書いたらクリスティー映画に触れる余地がなくなってしまったw

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